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by atsushisaito | 2020-12-02 20:49 | 写真集 | Comments(2)

はな子のいる風景 イメージを(ひっ)くりかえす

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published by 武蔵野市立吉祥寺美術館 Kichijyoji Art Museum / 2017/

69年間という時間を紡ぐのに、こんな方法があったのかと驚いた。吉祥寺動物園にいたはな子の前で記念写真をとる人たちの写真で一頭の像の人生を紡ぐ。点と点を結んで直線に。この本を手にとって衝撃が走ったのを覚えている。それぞれの写真はインターネットから拾ったりファウンドフォトのようなものではなく、一般に募り家庭で眠っていたプリントを送ってもらって編纂された。

年代がバラバラなので、当然ながら使われた機材やプリントされたフォーマットも違うので、それぞれを統一しモノクロに変換したものが本編となっている。また、リサイズする前の実寸のプリントが本文に貼り付けられているという、非常に凝った造本だ。中には貼り付けられたプリントの裏面にアザーカットが印刷されてるものもあり、捲る楽しみがあり面白い。

写真集を開く前はなんとなく「はな子大好き!」的なベクトルの1冊かと思っていたのだが、良い意味でその先入観は大きく裏切られた。一枚一枚は本当にただの記念写真。ただ、そこにはな子がいたから撮った写真。それは個別では全くもってはな子への愛などというものではない。それぞれの家族のそれぞれのストーリーの断片がそこにあるだけで、決してはな子は主要な出演者でもない。しかし、それらを集積し時系列に整理して並べた途端、長年に渡りそれぞれの家族のストーリーの背景にスポットで登場した名脇役の存在が大きく光ることになる。延々と続く背景のはな子を見ていくうちに、はらはらと感動し涙を流している自分がいた。

提供者それぞれのコメントを収録した冊子も同梱されていて、そのテキストを読みながら写真を見るという楽しみ方も。とにかくこの1冊に注ぎ込まれた労力を考えると2000円で買えることが信じられない。歴史に残る傑作。1刷はすぐに売り切れたみたいだが、その後、2刷が出てるので今でも普通に購入できるので、是非この本だけは見ておいた方がいいと断言できる1冊。


さくっと書いたので、詳しいレビューはこちらで

夜にはな子のところに忍び込んだ酔っ払いを殺してしまったり、飼育員も1人亡くなっているのだけど、それらの時期はぽっかりと時間が空いていたりするので、なるほどなあ、と思ったりも。



by atsushisaito | 2019-11-10 17:28 | 写真集 | Comments(0)

Mark Cohen「Bread in Snow」

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published by Super Labo / 2019 / edition of 1,000

Mark Cohenは1973年にNYのMOMAで個展をするほど当時はストリート写真の第一人者の1人であったのだが、その活動はぷっつり途切れて表舞台で再び脚光を浴びたのが2013年のLe Bal(フランス パリ)でのDark Knee展と、大きな空白の時間ができてしまっていた。なので当時の展示で初めてMark Cohenを知った人も多かったはず。私もその1人で、こんな構図で写真をとる作家がいたのか、と驚いた。

片手にカメラ、片手にストロボを持ち、ノーファインダーで撮影するスタイルで、日中シンクロで浮かび上がる被写体とそのトリッキーな構図の切り取り方で生まれる世界は実に新鮮で面白かった。 ちょうど当時の撮影している動画がyoutubeにあった。今なら通報されてもおかしくないくらいの暴力的とも言える大胆な撮影方法だ。

Dark Kneeはモノクロ作品で構成されているのだが、今作品は同時期の物でもカラー作品で編集された写真集。カメラにモノクロフィルかカラーフィルムのどちらが入っているかを意識しないようにしていたという。確かに驚くほどフィルムによる作品のブレはなく、一貫して全てが完全にMark Cohenの手の平でコントロールされている世界が続く。写真家は意外とカメラやフィルムの違いで作品がガラッと変わってしまうことも多いので、このあたりは本当に独特な感覚であると言える。

Mark Cohenの作品は目線が低い作品の割合が多く、それはなんだか犬の目線のようで面白い。また、子供を無防備にとらえた作品も多いのだが、それを欲望や願望から撮られたものではなく、目に入った、ただそれだけの理由でシャッターを押しただけのものだ。まさしく犬の目線。カラーもモノクロも彼にとっては些細な問題にもならず、ただただ「無意識のフレーミング」で世界を切り取り続けた。

そして、その無意識さの象徴でもあるのか、タイトルがとてもいい。Bread in snow、この作品群をこの簡素な言葉でまとめてしまうところがポエジーにも感じられる。確かに雪の路上でパンが落ちている写真が収録されている。もっと尖った、もっと禍々しく、もっとスマートなタイトルでも通用する作品群にbread in snow。それ以上それ以下でもない、現実をありのままタイトルにする、そのセンスこそMark Cohenという作家をもっとも簡潔に、そして完璧に象徴しているのではないかと思う。bread in snow。何度も口にしてみると、それはとても素晴らしいタイトルで素晴らしい写真に思えてくる。ただ雪の上にパンが落ちているだけなのに!

僕が購入したのはスリップケース入りの特装版。通常版は2種類、特装版は1種類の計3種類の表紙が用意されている。このうち特装版は神保町のスーパーラボのお店でしか購入できない。世界中でファンがいるMark Cohenの作品、その特別な表紙のものが神保町の店頭でしか買えないという、これはショップを持ってる版元の強みで、その戦略はとても上手だなあ、と思った。
ショップの空間もとても素敵なので、機会があればぜひ。

by atsushisaito | 2019-11-02 17:56 | 写真集 | Comments(0)

石内都 Miyako Ishiuchi 「Beginnings:1975」

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published by Sokyu-sha, 2018,

1975年の金沢八景で撮影された作品。石内都が「絶唱、横須賀ストーリー」を出版する3年前のもので、石内がテキストで綴っているように「ヘタな写真」。プリントの焼き方も乱暴なんだけど、時代感も加わってそれがいい味を出している。もう少し点数があった方がいいかな、とも思うが40年も暗室で眠っていたプリントから製作したというので、使えるものが少なかったのかもしれない。名作が生まれる前夜の作家の視線を知ることができる1冊。

by atsushisaito | 2018-11-22 17:10 | 写真集 | Comments(0)

写真集飲み会@VACANT

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VACANTでは実に3年ぶりの開催となる写真集飲み会。10月に開催です。イベント限定の特製ジンの無料配布もあります。ぜひ遊びに来てください!
詳細はfacebookページの方で随時更新していきます。今回のメインイメージは写真家 山谷祐介の作品です。
https://www.facebook.com/events/420677758423450/




by atsushisaito | 2018-10-21 20:00 | 写真集 | Comments(0)

奈良美智 Yoshitomo Nara 「Will the Circle Be Unbroken」

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published by Fine Art Photography Association, 2017, edition of 1000

昨年の代官山フォトフェアの展示に関連して千部限定で出版された写真集。美術作家として絶大な人気を誇る奈良美智の写真作品で話題を呼んだ。展示会場と所属ギャラリー以外では、銀座蔦屋のみの取り扱いと珍しい展開をしていた。B4変形サイズと大きい判型。普段のドローイング作品とどこか通底する共通の空気感が漂い、日頃の作家の視線を知ることができる興味深い作品。

by atsushisaito | 2018-08-21 16:48 | 写真集 | Comments(0)

Sohrab Hura 「Look It’s Getting Sunny Outside!!!」

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self-published / 2018 / edition of 600,

前作Life is elsewhereが瞬く間にsold outになり話題を呼んだ続編。判型、装丁も同サイズ、大きく異なる点は前作がモノクロで、今作がカラー作品ということ。今回の主役は母とその犬エルサ。15年前に父が家を出て行ってから、精神的な病気が進行していく母と共に一緒に暮らしてきたエルサの晩年の様子が描かれている。

愛くるしい姿は前半までで、後半からは見ていられないくらいに辛い場面が登場する。犬の晩年を看取った人ならわかるだろうが、エルサのように13年と長生きすると、足の自由が効かなくなり散歩もろくにできなく寝たきりになってしまう。死の後までオブラートに包むことなく描かれているそのシークエンスは、見ているものにとって辛さばかりがつのり、しんどい。

最後の一枚に母と生前のエルサの二人が寄り添っている写真が挿入されていることが唯一の救いでもある。前作の開放感から一転、愛らしくも苦しい一冊になっているが、この二つの作品の主題「Sweet Life」という言葉を噛み締めながらもう一度ページを捲って見ると、小さな救いのような光が感じられる。

ただ一点、作中に他の生き物(犬?)が死んでいる写真が見開きで登場しているのだが、これだけなんとも理解し難いな、と。これがなんかグロい。このあたりインド人であるソフラの宗教観が反映されているのか、解説してもらいたいところ。

前作の人気から、また600部ということもあって、正式な出版前に書店、個人からの注文が殺到してすでにsold out。ただし、まだ書店の店頭在庫は少しあるみたい。今年の年末のベストブックの発表に絡んでくる一冊。

https://sobooks.jp/books/88411


by atsushisaito | 2018-07-29 13:15 | 写真集 | Comments(0)

Weronika Gęsicka 「 Traces 」

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published by JEDNOSTKA, Weronika Gęsicka, Maga Sokalska, 2017, edition of 1000,


by atsushisaito | 2018-06-28 22:53 | 写真集 | Comments(0)

10th photobook in roshin books

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roshin books10タイトル目のTrace of fog、印刷を終えて現在製本中。6月上旬には世にでます。
現在プレオーダー期間中です。ぜひこの機会に。白い布に銀色を使ってのシルク印刷、型押しの使い方も面白いです(上の写真はイメージ画像です)。

by atsushisaito | 2018-05-26 09:12 | Comments(0)

Donald Weber 「War Sand」

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Published by Polygon, 2018,


 第二次世界大戦での最大の作戦であるノルマンディ上陸作戦をテーマとした作品。ロバート・キャパの緊迫した写真や、映画「プライベートライアン」で壮絶に描かれたヨーロッパの命運を賭けて戦われた舞台であるノルマンディ海岸を作家のDonald Weberが様々な角度から切り込んでいる。

 本を手にとってまず気になるのは、カバーに型押しされた兵隊の徒手格闘のイラスト。真面目なのになんだかコミカルで、それが背表紙にまで押されている。本棚に差し込んだ時にかわいい。ちなみにタイトルや作家表記はなく、イラストだけ。このイラストはWilliam E. Fairbairn(ディフェンドゥーという格闘技術を生み出した人だとか)の書籍から使われている。

 デザインを担当しているのはオランダのTeun van der Heijden。本文の各セクションで使用している紙を変えていて、ランドスケープから電子顕微鏡に映画のキャプチャやらの様々すぎる角度を見るものを飽きさせずに秀逸にまとめている。途中でフレンチバインディングを挟み込むなど(なんかトリックの種明かし的なのが裏に印刷されていたけど、わからず、、、、)デザイナーの手腕を大いに発揮している一冊なので、デザインをやる人なら購入しておいて損はないかと。

 作家がこの作品を制作した理由が小さなストーリーとしてジオラマの写真と一緒に展開されているのだけど、それがとても素敵。奥付からすると、作家のお爺ちゃんが息子に話したストーリー。お父さんからそれを作家が聞いた話。

 ノルマンディ上陸作戦が決行される前年にイギリス軍は密かにノルマンディに9人の隠密部隊を派遣した。その目的とは海岸の土壌の砂を採取すること。それを本国に持ち帰り分析することにより、上陸作戦の確度をより高めようとするものだった。これが事実だったかどうか、そこまでは定かではない。しかし作家は10人目の諜報部員としてノルマンディの地で砂を採取した。

 大学の協力により、最新の電子顕微鏡で砂を調査してみると、70年の時間の間、波に揉まれ太陽の日差しに晒されたなんでもない砂粒の微細な一部が人骨であったり、大戦時に使用されていた鉄であったりと、様々なことがわかった。その元素レベル(ちょっと理解が足らないのでこう書いてしまっていいのか?)の分析写真が描く世界が驚くほどに新たな世界を構築していて、もはやなんの作品だったかわからなくなったり。分析が深くて地球上には存在しない物質まで発見されてもいる。 

 しかし、戻ってこの話はノルマンディ。写真集の冒頭からノルマンディの雲の様子から始まり、ランドスケープ、ノルマンディの砂の解析、ジオラマ、そして最後にはThe Longest Dayなどのこの上陸作戦の映画のキャプチャで締められているというノルマンディすぎるこの本が今年のマストバイであることは確か。


https://www.warsand.com/

http://www.flotsambooks.com/SHOP/PH03544.html


by atsushisaito | 2018-03-19 12:58 | 写真集 | Comments(0)