2016年 01月 24日
Jacek Fota 「PKiN」
published by Fundacja Centrum Architektury,2015,edition of 700(Polish edition) 430(English edition),
ポーランド ワルシャワに聳える高層建築 文化科学宮殿。都市のランドマークともいえるほどの存在感のあるその建物はポーランド語でPałac Kultury i Nauki、頭文字をとってPkinと呼ばれている。北京とも似たそのイントネーションで蔑称されるには理由があり、それはその建物が現在のポーランドっ子にとっては負の遺産ともいえる、旧ソ連時代のスターリンによって建築されたものだからだ。
1930年代から50年代までにスターリン様式と呼ばれる建物が多く建てられた。代表的なものは、モスクワの中心部に建つセブンシスターズと呼ばれる7つの建物。クライスラービルやエンパイアステートビルのようなアメリカの建築物と張り合うように建てられた重厚なゴシック調の建物を、支配下であるワルシャワの地にスターリンからの褒美として建築された。それはスターリン死後も、支配の象徴として街を行く市民の視界から消えることはなかった。
そんな建物にJacek Fotaは焦点をあてた。そして粘り強く続けた撮影の末に、建物の裏側まで入りこむことに成功した。巨大な建物に存在する隙間から、そこで働く人たちまで。堆積した時間が描く静かな光景を丁寧に紡いでいる。
編集に写真家のMark Powerが参加している。Mark PowerはThe Sound of Two Songsの撮影で長くポーランドにいたから、その絡みで親交があるのだろうか。Fotaの撮るポートレイト写真の距離感は、Powerのそれに近いものを感じる。もしくはPowerが編集しているからこそPower好みの写真が選ばれているのか。
デザインは僕のお気に入りのデザイナー Ania Nałęcka。いつもいい造本でデザイナーの名前だけで購入しても外れがない。Mark PowerとはDie Mauer ist Weg! で共作している。表紙に描かれている土偶っぽい可愛いイラスト、作中の配電盤のようなものから起しているのだが、これがなんともユニークでいい。これを撮る写真家がいても不思議ではないけれど、じゃあこれを表紙に使いましょうっていうのは、この一連の作品から思いつくことはなかなかできないと思う。出来たものがさらっと目の前にあるので、なんだか素直に納得してしまうのだが、普通はもっと「かっこいい」ものを目指すだろう。それとは間逆な方向性で纏めてしまうのが、凄い。
見返しも可愛くて素敵。巻末に文化科学宮殿で働いている人達のエッセイが収録されている。猫ちゃんのエピソードがよかったなあ。お薦め。
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