2015年 11月 21日
DAVID ALAN HARVEY 「TELL IT LIKE IT IS」
published by Burn Books, 2015,
1967年、ベトナム戦争と黒人の公民権運動に揺れる時代の最中に、23歳のDavid Alam Harveyは黒人の家庭で一ヶ月ほど寝食を共にし、写真を撮った。撮影後に、自費で写真集を製作し、それを1冊2ドルで販売、その売上は慈善団体に寄付した。この時の写真集をリメイクしたのが本書だ。
A3変型のサイズに見開きや裁ち落としの多用で被写体の存在感があり、こってりと黒が盛られた美しいプリントは、初版の出来に満足できなかったという作家の気持ちの表れが存分に発揮されているように感じる。当時は駆け出しの作家で、金もなく、無名で、師もなく、コネもなく、その渦中に自費で制作した本のクオリティは推して知るべしだ。しかし、作品の内容はそれとは別だ。作中の写真は、若手で無名であったからこそ撮れたものであり、荒削りながらも撮影への欲望が迸っているのを感じられる。当時の社会で白人の目線で、家族の生活を捉えたものとしては貴重なものなのかもしれない。
事実、作品出版後から約10年後に、作家がこの作品をプレゼンする機会があり、それをみたBruce Davidsonが、いつ出版したのかを聞いて驚いたそうだ。Davidsonが黒人社会をテーマにした作品 East 100th Streetを出版したよりも4年も早くに、この作品が制作出版されていたからだ。
2014年、作家は当時、初版の写真集を片手に撮影させてくれた家族を探しに、当時の地域を歩き回ったが残念なことに見つけることはできなかった。しかし、地元紙がその話を掲載すると、それを読んだ当時7歳だった女性が名乗りをあげてくれて、再会することができたそう。当時住んでいた場所から数ブロック離れたところに住んでいたとか。
今ではマグナム所属の作家となり、世界各地で作品を撮り続け活躍しているが、この作品を制作する衝動が後の制作にまで通底することとなる。当時の白人の青年にとって、肌の色を超えて飛び込んだ世界はどこの世界よりも遠かっただろう。それに比べると、今の彼にとって国境を超えるだけの世界など、簡単なことなのかもしれない。