2018年 03月 19日
Donald Weber 「War Sand」
Published by Polygon, 2018,
第二次世界大戦での最大の作戦であるノルマンディ上陸作戦をテーマとした作品。ロバート・キャパの緊迫した写真や、映画「プライベートライアン」で壮絶に描かれたヨーロッパの命運を賭けて戦われた舞台であるノルマンディ海岸を作家のDonald Weberが様々な角度から切り込んでいる。
本を手にとってまず気になるのは、カバーに型押しされた兵隊の徒手格闘のイラスト。真面目なのになんだかコミカルで、それが背表紙にまで押されている。本棚に差し込んだ時にかわいい。ちなみにタイトルや作家表記はなく、イラストだけ。このイラストはWilliam E. Fairbairn(ディフェンドゥーという格闘技術を生み出した人だとか)の書籍から使われている。
デザインを担当しているのはオランダのTeun van der Heijden。本文の各セクションで使用している紙を変えていて、ランドスケープから電子顕微鏡に映画のキャプチャやらの様々すぎる角度を見るものを飽きさせずに秀逸にまとめている。途中でフレンチバインディングを挟み込むなど(なんかトリックの種明かし的なのが裏に印刷されていたけど、わからず、、、、)デザイナーの手腕を大いに発揮している一冊なので、デザインをやる人なら購入しておいて損はないかと。
作家がこの作品を制作した理由が小さなストーリーとしてジオラマの写真と一緒に展開されているのだけど、それがとても素敵。奥付からすると、作家のお爺ちゃんが息子に話したストーリー。お父さんからそれを作家が聞いた話。
ノルマンディ上陸作戦が決行される前年にイギリス軍は密かにノルマンディに9人の隠密部隊を派遣した。その目的とは海岸の土壌の砂を採取すること。それを本国に持ち帰り分析することにより、上陸作戦の確度をより高めようとするものだった。これが事実だったかどうか、そこまでは定かではない。しかし作家は10人目の諜報部員としてノルマンディの地で砂を採取した。
大学の協力により、最新の電子顕微鏡で砂を調査してみると、70年の時間の間、波に揉まれ太陽の日差しに晒されたなんでもない砂粒の微細な一部が人骨であったり、大戦時に使用されていた鉄であったりと、様々なことがわかった。その元素レベル(ちょっと理解が足らないのでこう書いてしまっていいのか?)の分析写真が描く世界が驚くほどに新たな世界を構築していて、もはやなんの作品だったかわからなくなったり。分析が深くて地球上には存在しない物質まで発見されてもいる。
しかし、戻ってこの話はノルマンディ。写真集の冒頭からノルマンディの雲の様子から始まり、ランドスケープ、ノルマンディの砂の解析、ジオラマ、そして最後にはThe Longest Dayなどのこの上陸作戦の映画のキャプチャで締められているというノルマンディすぎるこの本が今年のマストバイであることは確か。
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