2017年 12月 19日
Rafal Mirach 「The First March of Gentlemen」
Rafal Mirachはポーランドの写真家。2012年のIn the car with Rで世界の写真集愛好家にその名を広く知られるようになり、現在では優れたブックメーカーの一人として活躍している。現在の奥さんであるAnia Nałęckaもブックデザイナーとして初期からRafalのブックデザインを担当していて、その世界観の構築の一翼を担っている。
今作品は、首都のワルシャワから遠く西、ヴジェシニャでのアーティストレジデンスで制作された初のコラージュ作品。これまでの彼の作品を知っている人には唐突な意外性を感じることだろう。
この作品の根底にある事件が1902年にこのヴジェシニャで始まったドイツによりポーランド語弾圧に対する子供達のストライキにある。この運動はその後、ポーランド各地に広がっていくことになる。ドイツとソ連に挟まれた地政学的に複雑なポーランドはこれまでも、この後も国家として安定するまでに時間がかかった。
今回、コラージュに使用されている写真は、ヴジェシニャ地元の写真家 Ryszard Szczepaniakが1950年代に撮影した。それらのポートレートはRyszardの兄弟やその知人達で、彼らは第二次世界大戦中にドイツの占領下で、それらに対抗するパルチザン出身であった。
作品集のストーリーはいたってシンプルである。カメラの前で誇らしげにポーズをとる人々。彼らは作品中序盤、幾何学的な模型に拘束されたように配置されている。その拘束にも関わらず、その表情は素直に笑顔だ。見えない呪縛、平和という名でソ連に支配されていることに気がついていない。彼らが奪還した平和はシーソーの起点としてその端ががっこんと音を立ててソ連に移行しただけであった。
作中終盤、拘束のパイプはゆっくり瓦解していく。1989年に大きな機転を迎えたことを象徴しているのだろうか。民主主義国家へと舵を切ったことでソ連と離れ後にEUに加盟するポーランド。拘束から解き放たれた人々はわらわらと自由に配置される。しかし、その背景には変わらず色彩で分離された虚空な地平線が背後に広がり、人々はどこか落ち着かない。共産主義が残した経済的な爪痕から回復するのは簡単なことではなく、まだそこは安定の地ではないということか。しかし、そこで初めて彼らが歩み出す最初の「行進」という意味がタイトルへと繋がる通底したストーリーかなあ、なんて適当に思って見たり。
装丁はAniaのデザインが割と多様する印象があるコデックス。本の三方それぞれ色分けしているところがかっこいい。ニスなのかこってりとしたテクスチャーもまた。本文にも厚手の紙が使われているのだが、それ以上のカバーのボール紙が厚くて、本としてというより一つの作品という存在感が強い。作中の色使いは勝手に連想してしまうのだが、東欧的な絵本のような。実際に比べてみるとそうでもないかもだけど、私の頭の中でなんとなく東欧的。一番目を引くのがやはり、共産主義の象徴の色である赤い紐でぐるぐる巻きにしているところ。表紙の写真とこの紐で明快なコンセプトを打ち出している。
http://www.flotsambooks.com/SHOP/RAFAL.html
出版直後に1st editionは完売、2ndの出版が準備されているので、日本の店頭に2ndが並ぶのは来年から。