Laura El-Tantawy 「Beyond Here Is Nothing」

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self-published / 2017 / edition of 500 /

 2015年に自費出版されたLaura El Tantawy 「In the Shadow of the Pyramids」 はその年のベストブックに選出され、オランダのデザイナーSYBの優れたデザインに500部という少ないエディションということもあり、今では簡単に手に入れることができなくなったレアブックとなっている。前作で知名度を十分に上げてたこともあり、次作は大手と組んだ出版になるのかと予想していたが、それを見事に裏切っての挑戦的な新作を自費出版してきた。
 今回もデザイナーはSYBことSybren Kuiperによるもの。Vivian Sassenのflamboyaあたりからこのデザイナーの名前を意識するようになったが、今回ほどトリッキーな造本は初めてではないだろうか。左右に綴じが二つ、つまり左右に本の背がある形なら珍しくはないのだが、これは上方にも綴じが。簡単にいえば3冊の本が一つになっている。左右上からページが折り重なっていて、観るものはペラペラとそれを捲っていきながらイメージの洪水を楽しめる。ただし、捲った先から、また戻していく作業も強いられるのだが。
 個人的には正しい戻し方、つまり最初の状態に戻すのが難しい作品は苦手で戻す作業にひどくストレスを感じるのだが、この「元に戻らない」というのがそもそもこの造本の狙いで、500部の本があれば、500部それぞれのストーリーを鑑賞者の手で作り上げた後にこの作品は完成する。そして見る度に姿を変え無限にイメージの組み合わせは続く。終わらない物語。
 前作の革命がテーマであった作品とは一転、写真それぞれにはメインテーマを持たない。これらの写真は作家のインスタグラムで日々アップされていった作品だ。イギリスで育つも故郷はエジプト、世界を転々として生活してきた彼女はどこの国にいても異邦人としての感覚を持ち生活をしている。自身のぼんやりとした存在を目の前の光景に投影しつづけて得られた像をひらひらとめくっていくと、観てる側もその意識に巻き込まれていく。最後のページに辿りついたときに、ふと今どこにいるのだろう、という感覚に陥る。小説ノルウエーの森で、最後の電話ボックスの中で主人公が自分の居場所を見失うような、そんな気持ち。

 今年、この作品が話題のトップに来るのは間違いない。一見、価格が高いように感じるかもしれないが、はっきりいって全く高くない。価格はステップアップになっていて、175ユーロから始まり、現在は190ユーロ。おそらく、日本に今ある在庫がなくなり次の入荷になると2万円は超えてくるはず。2017年のマストバイな1冊。





by atsushisaito | 2017-06-26 17:51 | 写真集 | Comments(0)