Moises Saman 「Discordia」

c0016177_21285890.jpg

c0016177_2129462.jpg

c0016177_2131511.jpg

c0016177_21291729.jpg

c0016177_21292448.jpg

c0016177_21293013.jpg

c0016177_212937100.jpg

c0016177_21294539.jpg

c0016177_21295169.jpg

c0016177_2130453.jpg

c0016177_21301723.jpg

c0016177_21302653.jpg

c0016177_21303578.jpg

c0016177_21304424.jpg

self-published,2016, edition of 1500,

 タイトルのDiscordiaは、ギリシャ神話上の不和の女神 エリス。黄金の林檎を投げ入れたことにより女神の間での争いを引き起こしトロイア戦争開戦のきっかけを作った。アラブの春は、黄金の林檎だったのだろうか。物売りの青年の抗議の焼身自殺から始まった政権への抵抗運動は中東の周辺諸国の各地に飛び火していった。その運動は政権を打ち倒す結果となり、アラブの春として世界にその成果が知られた。しかし成し遂げた民主化は、それまでの独裁政権という圧政から解き放たれることとの引き換えにイスラム原理主義勢力の政治への参画を許すことになり、さらにはイスラム国の台頭を生みだし、再び世界は混乱の渦に巻き込まれていくことになった。
 アラブの春の熱が各国に飛び火するごとに、Moises Samanは撮影の地を転々としていった。スペイン系アメリカ人のSamanはニューヨークタイムズの依頼を受け、アラブの春の起爆点であるジャスミン革命が起きたチュニジアを始め、リビア、レバノン、シリアからエジプトと移動してといういった。一週間をチュニジアで仕事をし、翌週にはエジプトに、その二週間後にはアレッポにという具合だった。
 中東でSamanは報道カメラマンとして活動していたわけだが、Discordiaに収録されている写真は、そのような新聞のトップを賑わすような決定的瞬間の写真は並ばない。なにかが始まる前であったり、なにかが終わった後、その多くは紙面では使われなかった写真で構成されている。一枚で全てを語り尽くす必要がある報道的視点の目線ではなく、写真家としての目線で、自らの経験を投影した編集で写真集を綴り、より私的な目線でアラブの春という激動の運動の中に身を置いた一人としての4年間の長い物語を描き出している。
 重厚な布貼りの装丁で、表紙を捲ると見返しには大胆に兵士と思われる人がなにかを叫んでいるかのような写真が使われてる。見返しに写真を使うというのは、今では珍しくないものであるけれど、これだけ派手なというか、その存在を一枚の写真のようにして使うことはほとんどない。だいたいはパターンなどを抽象的に、あくまで補助的に作品を支える形で使われることが多い。
 見返しの流れで最初から飛ばしてくるかと思いきや、タイトルの後に流れるイメージは静かなものが続く。そこから静かだけれども、小さな揺らぎを作り出してSamanの視点で物語が始まる。まるで映画の一場面のように非現実的だけれども、内戦で起きている現状の出来事が続く。写真のレイアウトにも緩急を大きくつけ、要所要所に観音開きのページも折り込まれている。そこで特徴的なのは、Daria Birangによるコラージュ作品だ。写真作品から何人もの人の姿を切りとったものを一枚の写真にレイアウトしている。ドキュメンタリーという写真から人の姿、ゼスチャーを切り取ることにより、物語の背景というテキストから切り離し、よりその彼らの感情などを際立たせると同時に、一介のジャーナリズムのカテゴリーに収まることなく、写真集そのものをさらなる高みに押し上げることに成功している。また、その切り抜いた人の姿を表紙のクロスに型押ししているのだが、それがとても力強く印象的。
 まだ発売して間もないわけだが、すでに在庫は少なくなってきているそう。日本に十分に出回ることなくsold outになるパターンで、年末のベストブックには顔を出してくることが確実の名作。お薦め。
http://www.flotsambooks.com/SHOP/PH02704.html
http://www.bookofdays-shop.com/?pid=100482412
by atsushisaito | 2016-04-06 15:21 | 写真集 | Comments(0)
<< 酒讃家@秋田県秋田市 海賊船@中野 >>