Mariela Sancari 「Moisés」

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published by La Fabrica, 2015,

 今年も各方面から今年のベスト写真集が発表されているが、その中でも圧倒的支持を集めているのがこのMariela SancariのMoisés。すでに夏のアルルの時点で話題を呼んでいたが、一見地味な写真のためか日本にいてこの写真集が話題に上ることはなかった。もちろん僕も好きな感じではなかったので、購入することなく冬を迎えたわけだが、あまりにもベストに推す声が多数聞こえるので購入してみた次第。
 手にとってみても地味な老人の写真、そしてなにより観音開きのページが折り重なった状態の装丁。基本的に不可逆性の強い本は好きではない。巻末には右から戻せと丁寧に指示があるものの、もしきちんとページを直せなかったらどうしようという不安で一杯になる。本はぱたんパタンと閉じたいのだ。とはいえ、開いていく過程でイメージが順番に現れ、次の写真へとの繋がりでそれぞれの写真の折り重なるから生まれる妙は嫌いではない。ただ元に戻すことが嫌いなだけだ。
 コンセプトを知らずにこの写真集を見ていても、はっきりいって全く面白くない。ただそのコンセプトが完璧で、なぜこの作品が生まれたかということを知ると、なるほどなあと腑に落ちる。
 テーマは父親。Moisésというのは父親の名前なのかなあ。アルゼンチンのブエノスアイレスで暮らしていた作家が14才の時に、父親が自殺した。父が死んだということを知らされなかった作家にとって、突然の父親の失踪はトラウマのように心に突き刺さった。
 失踪が自殺だったと知らずに育った作家は、父がどこかで生きていると信じた。すれ違う他人にどこか父親の痕跡を探すようになる。新しい家族と暮らしている父、それともホームレスになっている父。彼女はその膨らむ思いを現実に作ろうとした。
 作家はまず新聞に求人広告を出した。父の写真に似ている男性を募集する広告だ。もちろん父は昔の若い姿。この男性が70歳前後くらいに加齢した姿に似ている男性をという条件で。彼女は募集で集まった老人に父の着ていた服を着せて、そのポートレートを撮影した。もし父が無事に生きていれば、こういう姿だったに違いない。撮影中の作家の心は父に対する様々な思いが交錯し、撮影後の半年間はその写真をみることもできなかったほどに、ナーバスになったという。
 背景にあるこのストーリーを知ってから彼女の気持ちを写真に重ね見ると、地味で不可解であった作品が、力強くそして屈折しつつも愛情に溢れた素敵な作品に見えてくる。彼女の髪をやさしくとく老人の姿は感動的ですらある。
 ただし、そのコンセプトについては写真集では一切触れられておらず、写真だけで紐解くには難易度が高すぎる一冊でもある。潔いといえば潔くもあるのだけど、誰にでもお勧めできる本ではないなあ。パタンと閉じれないし。
 
by atsushisaito | 2015-12-27 15:13 | 写真集 | Comments(0)
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