2014年 10月 24日
上本 ひとし Hitoshi Uemoto 「海域 Kaiiki」
published by Sokyusha, 2013,
回天の訓練海域を撮影した作品。 黒い空や海が連なる構成。その黒は美しくもあるが、その場所で行われていたことを考えると、せつなくもなる。 山口県周南市の大津島で訓練されていた回天は、人間が操縦する魚雷で、戦争末期に開発された特攻兵器だ。 先日、呉のヤマトミュージアムで実物の回天を見てきたが、ほんとうに魚雷を改造したシロモノで、人間が乗っているからといって当たる確率が上がるとは、とても思えないほどのものだった。 そんな奇怪な異物を作るまでに追い詰められていた戦況と、それでも日本を信じて海に散っていった若者を思うと、ただただ申し訳ない気持ちになってしまう。
作品には戦争を思わせるものはなく(数点、、、、回天っぽいのと、訓練場への通路)、若い兵士がひたすら訓練し、そしてその不完全の兵器のために訓練中に命を落とすこともあった「海域」が眼前に広がる。 そこになにがあったかという痕跡は私の中にあるので、写真集を開いて、その黒い空と海を開くたびに、かつて確かに存在した彼らに思いを馳せようと思う。