中平卓馬写真展 「Documentary」

中平卓馬写真展 「Documentary」@BLD Gallery
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 中平卓馬の写真集発表と同時に個展開催。 僕は正直、この「伝説」という修飾語がついた中平のカラーの作品は好きではない。 その理由は彼のモノクロの作品が大好きだからだ。 学生時代、森山大道病にかからなかった僕は中平卓馬病にかかってしまい、彼の60年代の背中を追いかけていた。
 周知のごとくこれらのカラー作品は、その僕が熱くなったころの作品と大きな断絶を経て撮られた作品だ。 同期の森山大道と比べると、中平は玉手箱を開けてしまった浦島のようにヨボヨボしている。 その姿が全てを物語っている。 中平は大きな時間の流れから、どこかの違った次元の支流に間違って流れてしまい、本人もその状態に気づかないで今に至っている。
 猫と浮浪者と、日常の断片。 稚拙と切り捨てていいようなカットが並べられた展示。 やっぱりこんな感じかあ、と流して見ていると、妙にひっかかる。なにがひっかかっているのかも自分ではわからない。 しかし、こんな月例コンテストに出しても、一番最初に弾かれるような写真に供応している自分がいる。 そのとまどいに驚きさらにフィルターの濃度をあげて見続けても、作品から鮮烈な力を感じた。 
 世界を1か0で見たとき、これらの写真はまったく箸にもかからないどうでもいい瞬間だ。 しかし0が1になる瞬間をスローモーションで見た時、その合間から顔を出して笑っているジョーカーを中平というフィルターを通して確実に捉えている。 
 しかし、やはりそれは彼のフィルターであって、僕がこの展示に感銘を受けたのは一時の誤りであったと思いたい。 このフィルターをかけて、他の展示に行ったら、まあそれがただの海外の町の綺麗な風景の写真であったことを差し引いても、もはやその会場にもいたくなかったし、またそんな自分がその会場にいることを展示してる人に申し訳なくて、一刻も早く立ち去りたかったし、そして立ち去った。
by atsushisaito | 2011-01-24 22:10 | 写真展 | Comments(0)